インタビュー&コラム
IPO審査の厳格化
世の中にはさまざまな企業があり、全国的な規模で展開している大企業もあれば、数名で事業を行っている零細企業もあります。大きく展開しようと思うならば、ぜひとも株式市場に上場したいところですが、日本の東証をはじめ世界の株式市場において、リーマンショック以降、上場のためのIPO審査の基準を厳格化する流れになっており、上場する企業にとっては、大きな壁となっています。
リーマンショック後の経済動向
2008年のリーマンショックから、今年で10年が経過しました。この事件によって、世界経済は一気に冷え込み、世界同時不況が長く続きました。日本では、多くの派遣労働者が一斉に解雇され、「年越し派遣村」のニュースが連日報道されていたのを、記憶している方もいることでしょう。
しかし、世界経済の復興がリーマンショック以前の状況に回復したかと言えば、多くの方がそのような実感を持てていないと思います。
経済成長とアベノミクスの実情
安倍内閣がアベノミクスの効果を強調し、日本経済が成長していると言いますが、かつての昭和30~40年代の高度経済成長の時代とは、明らかに勢いが違います。
以前は、製造業を中心に、日本の産業全体が拡大再生産を続け、企業も潤沢な利益を出すと同時に社員たちの給料も増え、国民全体がバラ色の未来を思い描いた時代です。年を追う毎に、日本経済の規模は拡大していきました。企業は設備投資に、豊富に資金を注ぎ込んでいました。
しかし今の時代は、企業はギリギリまでコストを削って、ようやく利益を確保している状況であり、しかも未来に対して不確定な要素が多く、「いつまたリーマンショックのような危機が訪れるかわからない。」という懸念から、社員の給料にも還元せず、設備投資にも回さず、お金が市場を回らなくなっています。多く国民が、経済が成長している実感がないのは、至極当然です。
そして、このところ大企業によるデータ改ざんなどの不祥事が目立ちます。ここ2~3年でみても、三菱自動車、日産自動車、川崎重工、レオパレス21、神戸製鋼、旭化成の子会社、そしてつい最近のニュースが、KYB及びカヤバシステムマシナリーによる、免震・制振オイルダンパーの性能検査記録データの改ざん問題です。これらの事件は、大企業も年数が経過し、創業精神が薄れ、危機意識が欠如したものと言えますが、ギリギリまでコストを削る必要に迫られた、苦し紛れの経営事情もあるように思います。
経済動向がIPO審査に与える影響
こうした不適切な会計や上場直後の業績の低下などを受け、日本の東証をはじめ世界の株式市場は、IPO審査の厳格化を続けています。具体的には、経営陣の不正チェックの強化や業績の見通しの根拠を企業に求めるなどです。
これから上場しようと考えている企業にとっては、上場することで大規模な資金調達が可能となり、大きく事業展開することができます。また、会社の知名度があがることで、優秀な人材を集めやすくなるメリットもあります。また、かつて上場していて廃止になった企業としては、信頼度回復の大きなチャンスです。
しかし、これから世界経済がどうなるか、日本のみならず、世界のあらゆる国々が、明確な未来を描くことができません。未来に対して、予測がつかない時代に入ってしまったのです。
かつて18世紀に、経済学者アダム=スミスが『国富論』を著し、世界経済は自由競争に任せておけば、「神の見えざる手」によって自然に発展し、大企業が利益を得られれば、社会の末端まで恩恵が及ぶと述べました。そして、日本の高度経済成長の頃まで、それは間違いない法則と信じられていました。
しかし今の世界経済は、アダム=スミスが述べたような法則には、全く合致しない動きなっています。
こうした中で各国の株式市場が、容易に企業の上場を認めないのは、至極もっともだと言わざるを得ません。果たしてその企業が、上場した後に確実に利益を上げ続けることができるか、不安な要素が多すぎるからです。しかし、このIPO審査の厳格化が長く続けば、ますます市場に資金が流れなくなり、デフレ状態も長引き、実質不況のような状態が継続することになってしまいます。
IPO審査を突破する企業への期待
IPO審査の厳格化は、投資家の保護の意味で、ある程度やむを得ませんが、経済の牽引役は必要ですので、将来性が見込める企業においては、ぜひ上場の壁を突破して多くの利益を上げ、経済・社会全体に恩恵をもたらして欲しいと思います。
それでは、どのような企業に成長性・将来性が見込めるでしょうか。例えば、AIに関する新技術の開発、ドローンを活用したビジネス、地球温暖化を防止するための技術、新エネルギーの開発などに、画期的なアイデアと技術を提供できるならば、間違いなく成長性・将来性は見込めるでしょう。また、高齢化がさらに進む中で、介護のための新しい器具が開発されると思われます。モノ作りに関しては、日本に大きなアドバンテージがあります。
東京五輪はビッグチャンス?
短期的に見れば、2020年に開催される東京五輪は、大きな経済的波及効果が期待できます。このところ、日本を訪れる外国人観光客が急増していますが、2020年にはさらに多くの外国人が訪れ、さまざまなビジネスチャンスがあるはずです。建設業に関しては、特需があるでしょうし、一時的ではあっても、経済が大きく活性化することは、間違いありません。日本経済にはまたとない追い風です。
ただ、五輪の効果はあくまで一時的なので、いかにそれを持続させるかの工夫が必要になります。前回のリオデジャネイロ五輪は大成功でしたが、その後のブラジル経済は低迷しています。東京五輪で、さまざまな施設が建設されるはずですが、それらの施設を五輪後もいかに有効活用できるか、そこに経済効果の持続がかかっています。
まとめ
いずれにせよ、IPO審査の厳格化が続く中で、それでも成長性・将来性が見込める企業に関しては、ビジネスチャンスを逃さず活用し、上場の壁を突破して、経済全体の牽引車になって欲しいと思います。今後の経済状況も不確実な要素は多いですし、東京オリンピック後のことは、実際に終わってみないと予測がつきません。しかし、世の中全体に閉塞感がある中で、意欲的に挑戦しようとする企業の未来に、期待したいと思います。